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青嵐  11

今年14歳になった愛犬は、とてもよく寝るようになりました。 特に散歩の後は爆睡です。 齢だなぁと切なさを感じる一方、食欲の減退は見られず、おやつ欲しさに突然お手をする「あざとさ」。 大好きです!

では、どうぞ






騒動は後宮近くの宮で起こった。

侵入者にいち早く気付いた隠密が行動を起こす直前、忍び込んだ者は一本の矢を放って逃走。 隠密は宮から消えた者を追い、騒動に気付いた警護兵が放たれた矢の行方を追った。 矢は後宮近くの宮へと続く回廊の床に突き刺さり、特徴のないその矢には一片の文が巻かれていた。 


「陛下、不穏な動きがあったようですね」
「ああ。 矢に巻かれていた文がこれだ」

冷ややかな空気を醸し出す陛下から紙片を受け取った李順は、嘆息とともに眉を寄せた。 
バイトから昇進した妃の、厄介ごと面倒ごと引き寄せ体質はどうやったら改善できるのだろうと溜め息が零れる。 本人が悪いわけでないと承知していても、苛立ちは治まらない。 
文を広げると、さらに溜め息が零れ落ちる。

「何ですか、これは! ・・・・・『愚かな王よ 穢れた眼を改め、哀れな民を解放しろ』? まさか、哀れな民とは後宮まで忍び込んだあの三人組のことですか? いったい、何の茶番ですか。 哀れなのは手を焼いている私どもだというのに」

口を開けば泣き喚くか食事をするだけ。 経費だけが嵩み、侵入目的も未だ明かさない愚かな娘たちが、こともあろうに哀れな民というのか。 これには怒りを超えて、呆れるばかりだ。
妃に会いに何度も忍び込んだ娘。 さらにはどう見ても、ただの町人らしき姉弟。 
口を開かせるのは簡単なのだが、いまは房に響く呻き声で怯えさせるだけにしているのは陛下からの指示だ。 それには妃が関与しているからだろうと李順は確信している。
だが、王宮の敷地内に矢を放たれては動かざるを得ないだろう。

「陛下、もう待てません。 三人の取り調べの許可を御願いします」
「それは報告を聞いてからだ」

陛下はそう言うと立ち上がり、背後の窓を開いた。
音もなく姿を見せたのは隠密の桐。 苛立ちも露わな李順を目にしても桐の表情は変わらず、いつものように飄々としている。 陛下が顎をしゃくり促すと、桐は慇懃に頭を下げた。

「報告致します。 矢を射た者は城外にて捕らえたそうですが、捕らえたと同時に舌を噛み切ろうとしたそうです。 齢は三十前後とみられる痩躯の男。 身元が分かるような持ち物は所持しておらず、今は自死せぬよう猿轡を噛ませているとのこと」
「三人組の仲間かどうかも分らぬか・・・・・」
「問い掛けには一切応じず、です」
「では陛下。 あの姉弟だけを別室に移し、男と会わせて見てはいかがでしょう」

厚顔無恥で不遜な娘はさておき、姉弟ふたりだけなら演技も碌に出来ないだろう。 もし声に出さずとも、表情や態度で仲間と知れるかもしれない。 仲間と解れば取り調べも一歩前進する。 姉と弟がいることで自死しようとしていた男も口を割るかも知れない。 新たな侵入者が足を運ぶ前に、さっさと事を片付けてしまいたい。

李順の意見に、陛下は目を細めて口を閉ざし、やがて口端を持ち上げた。
これで進展するはずだ。 安堵するのは早いだろうが、一歩前進したと李順は肩から力を抜いた。 あとは溜まっている書簡を一刻も早く片付けるだけ。 その前に、騒動に気付いている大臣らから何か問われるだろう。 その対策も考えなければならないから、頭が痛い。 
ひとつ片付けば、ひとつ面倒ごとが増える。 まったく、安寧とは無縁の日々だ。

李順が心の中で己の不憫さを嘆いていると、とんでもない発言が耳を直撃した。

「刑房には私が赴こう。 まずは三人組に会い、まだ口を開く気がないのか訊ねてみる。 桐は妃警護に向かい、李順は小煩い大臣らを押さえておけ」
「はぁ!? 陛下、な、何を」
「まだ三人組とじっくり面談する時間がなかったから、丁度いい」
「じっくり面談する時間など、ありませんよ! 陛下はじっくり書簡と向き合って下さい。 侵入者に関しては刑房と警護兵に任せ、報告をここで待つのが妥当です!」
「・・・・・。 では、次の書簡を持ってこい」

逃げる気満々の陛下を前に、李順は歯噛みする。 決裁済みの書簡を各部署に運び、前案件の進捗状態の報告を受けなければならない。 大臣からの詰問もあるだろう。 宰相から新たな書簡を受け取る必要もある。 
李順が執務室を離れている間に、陛下は間違いなく刑房に向かう。 
それを・・・・・・留めることは難しい。

「くぅっ、‥‥陛下、私は一刻後には戻りますから、それまでには陛下も執務室に戻り、政務に御励み下さいませ」
「いつも励んでいるではないか。 政務を溜めると李順だけでなく、妃も煩いからな」
「それでは、陛下に煩いと言われた妃警護に向かいます」
「桐、余計なことは言うなよ」

陛下が眉間に皺を寄せる前に、隠密は姿を消した。  
頼りない釘だが、政務が滞ると妃は陛下を叱責する。 一介の妃が陛下を叱責するというのもどうかと思うが、それで陛下が奮起して政務に励むことがあるのは、口惜しいが事実だ。 
一刻後には政務再開ですからね、そう繰り返して李順は執務室を出た。





後宮立ち入り禁止区域まで忍び込んだ三人組。 
妃に会うためだけに危険を掻い潜り侵入し、捕縛された。
届けた手紙が無視されたことが原因なのか、捕まってからも妃との面会を熱望している。
何を考えているのか、刑房に押し込まれても未だ口を割らずにいる度胸には感嘆するが、矢を放つのは遣り過ぎだ。 刑房内の仲間なのは間違いないだろう。 そうなると他にもまだ仲間がいる可能性があり、さらなる面倒ごとが増える可能性がある。 

「あの姉弟、まともに話すことが出来ればいいがな」

気丈な娘は十五くらい、怯え泣き続ける姉弟はたぶん十二、三歳くらいと思われる。 
李順が言った通り、姉弟の態度で何かが動く可能性は大きい。 捕らえた男の名前、出身地、ほかの仲間の有無、動機。 浩大が調べている、子供の失踪事件に関しても、その後の進展が待たれる今、面倒ごとはひとつでも早く片付けてしまいたい。
そうでないと・・・・・・・夕鈴が動き出すかも知れない。

夕鈴は優しさが過ぎるのだ。 
情け深いというか、懐が深いというか、器が大きいというか、物事を深く考えないというか・・・、裏に隠された闇に気付きもせず、時には気付いていても躊躇なく突っ走ろうとする。 
大半はそれでどうにかなっていたようだが、危機管理能力が著しく欠如していることを本人はまったく自覚していない。 王宮において、それがどれだけ危険かを多少は理解し始めたようだが、それでも彼女は彼女の正義に従って行動することが多々ある。  
過去、夕鈴が何度無謀な行動に出たかを思い出し、黎翔は深く息を吐いた。
正式な妃となっても、夕鈴の根底は変わらないだろう。 少しでも親近感を抱いた相手には、出来る限界を超えても手助けしようと努める。 それが自分を害そうとした相手であってもだ。 
そこが彼女の美点であり、難点でもある。 

だが、母を亡くしたとはいえ家族仲睦まじく過ごしてきた夕鈴に、貧困や享楽のために子を蔑ろにする親がいる現実を知って欲しくない。 その事実を知れば、どれだけ胸を痛めることだろう。 もし忍び込んだ娘たちが、その事実を妃に陳情に来たのだとしたら、夕鈴は矢も楯もたまらずに動き出すことは想像に易い。 

浩大からの報告を耳にした時から嫌な予感が頭にあった。
上に訴えても陳情は通らず、売られた子の未来は暗く、内情を知る者は諦めろと首を横に振るばかり。 あの三人組は売られた側、もしくは攫われた哀れな本人、行方知れずになった子の身内の可能性がある。 
その現状を知らせようと、知って欲しいと、王宮に忍び込んだのか。
・・・・・・出自不明の怪しげな噂が付きまとう妃に陳情しようと?
確かに城下では国王の唯一の妃である夕鈴が、あらぬ誤解のもとに怪しげな存在になっているのは知っているが、庶民がそんな妃に会うために忍び込むのは珍妙だ。 
では、夕鈴に何を訴えるつもりなのか。 
あの妃なら何とかしてくれると、そんな噂でも流れているのだろうか。

「私の妃を、何に巻き込もうとするのか・・・・」

面倒ごとに夕鈴が関わると、黎翔も冷静ではいられない。 
時に思ってもいない方向に好転することもあるが、危機に陥る展開もある。 
それを説いても、知らぬ間に参加しているのが夕鈴だ。 わずかな瑕疵もつけて欲しくないと願うのに、彼女は自ら揉め事に足を突っ込もうとする。 
困ったものだと眉を顰めながら、黎翔の口端は知らず持ち上がっていた。 




「これはこれは陛下。 例の男に会いに来られたのですか?」
「ああ。 奴は『哀れな民を解放しろ』と書かれた文を持参した。 その真意を問いたいが、かなり無口な男だと聞いてな。 そこで側近の提案を実行すべく、足を運んだという訳だ」
「側近殿の御提案、ですか?」
「仲間の可能性があるため、姉弟だけを男に引き合わせる。 先に捕まっている『哀れな民』と会えば、何か話す可能性がある。 男が口を割らずとも、姉弟が何かしゃべるかもしれない・・・・。 と、いうのが李順の考えだ」
「気丈な娘につられたのか、最近は姉弟も食事を残さず、夜も良く寝ております。 多少は落ち着いていると思いますので、男と会って正直にお話くださると良いですねぇ」

三人のいる房に案内するよう伝えると、監理官は恭しく低頭した。 
娘たちのいる房は刑吏官の詰所隣りにあり、出入りする刑吏の姿を目にするたびに姉弟は悲鳴を上げているという。 かたや気丈な娘は「妃に会わせて欲しい」の訴えを繰り返し、侵入目的に関しては無言という姿勢を崩していない。 他の房から届けられる苦し気な呻き声にも顔色ひとつ変えず、妃に会わせて欲しいと繰り返している。

監理官が持つ鍵束の音に気付いたのか、姉弟らしき悲鳴が廊下に響き渡る。
目的の房に着くと、頑健な鉄柵越しに廊下に顔を向けている娘がいた。 その奥には身体を寄せ合う姉弟がいて、見てわかるほどに震えている。 確かに気丈そうな娘だが、奥の二人を連れて、どうやって後宮まで辿り着いたものかと感心してしまう。 警備の粗を正すためにも、ぜひ詳細を尋ねたいものだ。

「侵入目的を話す気になっただろうか」
「・・・・・お妃様に会わせてください。 お妃さまにでしたら、正直に申し上げます」

背を正した娘はそう言い切ると、両手を着き、土汚れた床に額を押し付けた。 姉弟が顔色を変え、娘の背後で同じように額付くのを、黎翔は胡乱に見下げる。 些かも変化のない娘の心情に、まっすぐな気迫に、やはり夕鈴を会わせる訳にはいかないと眉をひそめた。 演技ではないと分かるからこそ、夕鈴が何を言い出すか嫌でも分かるからだ。

「我が妃に何を伝えようとしているのか、この場では言えないか?」
「我が・・・って、こ、国王陛下!?」
「ひぃっ、お姉ちゃんっ!」

刑房に現れたのが自国の王と解り、姉はひっくり返り、弟は姉に縋って悲鳴を上げた。 娘も勢いよく顔を上げ、目を瞠る。 監理官は表情も変えずに扉の鍵を開け、背後の刑吏二人に姉弟だけを連れ出すよう指示を出す。 弟を庇うように重なる姉ごと持ち上げて房を出ようとすると、娘が立ち上がり声を放った。

「その子たちを、どこへ連れていくつもりですか!」
「ここは刑房ですよ。 詰問のために別の房に移動させます」
「詰問なら、私だけに」
「それは出来ませんねぇ。 さあ、早く連れて行きなさい」

監理官の指示に刑吏が姉弟を連れ出そうとすると、娘は刑吏らに体当たりを喰らわした。 しかし体格の差があり、倒れたのは娘の方だった。 すぐに起き上がろうとする眼前に刑杖を突き付けられ、娘は苛立ちも露わに舌を打つ。 やがて恐怖に声も出ない姉弟の姿が見えなくなると、娘は大きく息を吐き再び正座した。 

「あの子たちは・・・・、どこへ」
「別の房ですよ。 ああ、惨いことなど致しませんので御安心を。 ただし、いつまでも口を開かねば対応を変えざるを得ないかもしれませんねぇ。 あなただけでなく・・・・・、あの姉弟も」
「・・・・あの子たちに罪はありません」

床に着いた両手を見つめたまま、娘は頑なな態度を変えようとしない。 
その、ただの町人ではありえない度胸の据わりように、黎翔は目を細めた。 娘の意図は知れないが、王宮に出入りするだけの身体能力や、自分より幼い子を巻き込み捕らえられてもなお変わらない強い意志。 各州に忍び込ませている隠密と同等の胆力に、正直驚きを禁じ得なかった。

「我が妃には何度も会っていたはずだが、まだ何か用があるというのか」

娘は口を固く閉じたまま、それでも頷いた。 どんな用があるというのか、姉弟が男と会って、何か進展があれば判明するだろうか。 
淀み停滞していた王宮を立て直そうと黎翔が王になり、執拗な妃推奨を回避しようと夕鈴を雇い、紆余曲折あって正式な妃になるまで、いや、なってからも日々騒動が多発している。 ゆっくり休めたのはいつだったのかも分からないほどだ。 
自分のことより黎翔を第一に、第二に弟である青慎を大事にする夕鈴を、満足に慈しむ暇もない。 この面倒ごとを即座に解決し、温泉のある離宮で夕鈴とのんびり過ごしたい。

「・・・・・お妃さまに、会わせてください」

離宮で夕鈴と美味しいものを堪能している夢に馳せていた黎翔は、娘の一言に目を瞬き、眉を顰める。 隣りに立っている監理官が袖を持ち上げて笑いを堪えているのが目の端に映り、深く、それはそれは深く嘆息を漏らした。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:45:05 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
更新ありがとうございました。
監理官のまたまたの登場、ありがとうございます!

まだまだ、お話の展開が読めませんねぇ。
この娘さんも単なる村娘に思えないし。
広大の報告、早くこないかなー。
次の更新も楽しみにお待ちしています!
2018-06-20 水 23:23:44 | URL | ハニー [編集]
Re: タイトルなし
ハニー様、コメントありがとうございます。 返信が遅くなり、本当に申し訳御座いません!! 毎日毎日暑いですが、体調は大丈夫ですか? 今までは犬を免罪符にクーラーをつけていましたが、今年はそんな言い訳は必要ない、すぐにスイッチを入れろと義理親にも言い聞かせています。ベランダで足の裏を火傷しそうになった娘、口を開けっ放しのインコ。汗だくで臭い息子。
無理はせずに酷暑を乗り切りましょう。
2018-07-22 日 23:40:01 | URL | あお [編集]
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