FC2ブログ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
青嵐  12

迷いインコがうちに来てから、早三年が経過。 オスだと思っていたのに卵を産み、犬が近付くと威嚇し、大人しく肩に乗っていると思ったら耳たぶを攻撃する。 メスはしゃべらないと聞いていたのに、最近は「ピーちゃん、ビーちゃん」らしき言葉をしゃべっている。 十数年前に飼っていたインコも迷いインコだったけど、今度のインコは長生きしてくれるといいな。


では、どうぞ






別室に連れ行かれた姉弟は、薄暗い房の床に膝をつかされた。 
姉弟は恐ろしさのあまり今にも息が止まりそうで、全身の震えが止まらない。 
肉の鎧をまとった刑吏に無言で房から引きずり出され、さらには罪人の重苦しい呻き声が響く中を運ばれ、泣く気力も削がれていた。 
手足に架せられた鎖は重く、これから何が起こるのか想像することさえ出来ない。 静まり返った場の雰囲気に気がおかしくなりそうで、自分の息遣いがやけに大きく響き聞こえ、これは本当に現実なのか判らなくなる。 
どのくらいの時間が経過したのか、ジャラジャラと地を引きずる鉄の音が耳に届き、姉はのろのろと顔を上げた。

「あっ・・・!」

血を滲ませた猿轡を噛む男を目にした姉が、腰を上げようとして刑杖に阻まれる。 弟は刑杖の動きに思わずギュッと眼を瞑り、全身を震わせた。 
姉弟を目にした男は僅かに眉を顰めたが、すぐに表情を消してしまう。 
その意味を察した姉は小さく頷き口を噤んだが、遅れて顔を上げた弟は、目を瞬いた後に喜色を滲ませ身を乗り出した。

「姉さん、葉さんだっ! 葉さん、助けに来てくれたの!?」
「旭宇、駄目っ!」
「え? ・・・・っあ」

鎖を纏った手を口に宛がうも、発せられた言葉は戻らない。 
一気に蒼褪めた弟はとなりの姉の顔色を見て、すとんと腰を落とした。 自分が仕出かした失敗を悟ったのだろう、弟は悲痛な呻き声を上げて項垂れる。
無言のまま見下ろす刑吏の前で、弟が「ごめん、姉ちゃん、・・・ごめ、ごめんなさい・・・」と哀れに繰り返す。 だが、泣き崩れる弟に掛けるべき言葉も見つからず、姉はただ拳を震わせるしか出来ずにいた。

「・・・・・弟、旭宇を別室へ」

ひぃっと叫ぶ弟の身体が、別の刑吏の手によって持ち上げられる。 思わず伸ばした手も届かず、弟は房から連れ出されてしまった。 
弟を何処へ連れて行くの!? 
そう尋ねて刑吏は教えてくれるだろうか。 ・・・・・・弟は、賢く口を閉ざしていられるだろうか。  
無理を言って、王宮に忍び込むという彼女を追い掛けて来てしまった。 彼女の足手纏いになるから待つよう何度も何度も説得したのに、弟は置いていかないでくれと泣き喚いた。 
結果、彼女には多大な迷惑を掛けてしまった・・・・・。
何度も何度も詫びたが、彼女は僅かに口端を持ち上げて首を横に振った。 
本当は心の底から呆れているだろう。 怒っているだろう。
僅かでもいいから彼女の役に立ちたかったのに、自分たちが後を追ったことで彼女を危機に陥らせてしまった。 さらには助けに来てくれたであろう、葉さんの名を明かしてしまった。
それを知った時、彼女はどう思うだろう。 
もう手の施しようがないと、見限られるかも知れない。 
いや、何てことをしたんだと怒鳴られ睨まれるならいい。 無言で顔を背けられたら・・・・・。 
ああっ! そんなことになったら死んだ方がマシだ。 死んで詫びることが出来るなら、だが。
絶望に打ちひしがれる姉の顎を、刑棒が持ち上げる。 

「全て正直に話すことだ。 弟と、そこにいる男の命を望むならば」
「・・・・・・・・」

視界が歪み、鼻の奥が熱くなった。 
歪んだ視界には、何もしゃべるなと、眉を顰めて訴える葉が映る。 危険を承知で王宮に忍び込んだ理由と、その経緯をお前たちは承知しているだろうと強く訴えている。
どれだけの決意と思いを抱えて娘が後宮まで侵入したか。 そのための準備にどれほどの期間と犠牲を払ったか。 その足を引っ張るつもりか、と。
・・・・・・わかっている。 切実な思いを託した側の一人として。
脳裏に小さく白い手が浮かぶ。 それは、ひらり、ゆらりと揺れ、視界から消えていった。 歯を喰いしばり、拳を握って見送った情けない自分。 物陰で声を殺して泣くしか出来なかった自分。 
そんな臆病で卑劣な私たちのために立ち上がってくれた有志のひとりとして、葉が目で訴え続ける。 皆の意思を忘れるな、と。 
だけど・・・・・・・。
刑吏に連れ行かれた弟は、病弱な母の代わりに自分が育ててきた。 苦しい生活の中、精いっぱい慈しみ、まっすぐに育てた。 その弟が、手の届かない場所で泣いていると思うと。
握った手の中に違和感を感じて視線を落とす。 強く握り過ぎて、爪が肉を削ったようだ。 指の間から赤いものが流れ落ちると同時に、頭の奥が痺れたように感じた。 
ああ、どうしても・・・・・弟を見捨てることなど出来ない。 私には無理だ。
そっと顔を上げ、目で詫びる。 視線が合うと葉は苦いものを口いっぱい含んだ顔になり、やがて、力尽きたように俯いた。 
申し訳ありません。 ごめんなさい。 許して・・・・くれなくてもいい、ですから。 
いくら詫びても足りないだろうと確信しながら、姉は弟のために戦慄く口を開いていく。
 

**

 
「お話が盛り上がっているところ大変申し訳ございませんが、国王陛下におかれましては、そろそろ御政務にお戻りになった方がよろしいのではないでしょうか」
「お前には、盛り上がっているように見えるのか?」

通路で刑吏からの報告を受けていた監理官が、柵越しに問い掛けてきた。 いつものように柔和な笑みを浮かべているが、含みがあることが窺える。 

「後は私どもにお任せいただき、側近殿がこちらに足を運ばれます前に・・・・・と、御提案させて頂いたまでで御座います。 御政務が滞りますと、陛下には心配される御方もいらっしゃいますし」
「・・・・・・・」

溜め息ひとつで黎翔は諾と応えた。 
心配される御方とは、妃である夕鈴のことだ。 
より強固となった警備体制、緊張みなぎる侍女たちの姿に強張った笑顔で対応している夕鈴の姿が思い浮かび、仕方がないと気持ちを切り替えた。
だが、黙って場を離れるつもりはない。

「王宮に矢を放った男を捕らえた。 矢文にはお前たちを解放しろとあり、さらには王である私を愚弄する一文もあった。 そのような王の妃に会いたいと願うは、もしや妃を害そうとするためか?」
「い、いいえっ! お妃さまを害そうなど、あり得ません!」
「だが矢文の内容を我が妃がどう受け取るか、・・・・想像に易いだろう?」

顔を上げた娘の顔がぐしゃりと歪むのを後目に、黎翔は房から出た。 

夕鈴に矢文の内容を知らせるつもりはない。 
回文の時もそうだが、本来なら後宮に住まう妃がそのようなものに煩わされる必要はないのだ。 彼女がすべきことは黎翔を愛し、ともに幸せになることだけ。 
それをいくら説いても納得はしてくれないが・・・・・。 夕鈴が気にすべきことではないと言い聞かせても、妃として係わるべきではないと力強く説いても、だ。 表面上は納得した顔をしていても、本意でないことは容易にしれる。 
困ったものだと眉尻を下げながら、黎翔は苦笑してしまう。 夕鈴がいくら隠そうとしても、自身が完璧だと思い込んでいる妃演技で乗り切ろうとしても、駄々漏れなのだから。 
素直に微笑む夕鈴を得たければ、この一件を早々に片付けること。 この一点に限る。
夕鈴の耳に届かぬうちに、目に触れる前に。

「まったく・・・・・面倒なものだ」
「本当で御座いますねぇ」

間近から聞こえてきた監理官の声に、黎翔は目を瞬く。 
そういえば奴がいたなと振り向くと、背後に立つ監理官は恭しく拱手一礼して、場を移しましょうと促してきた。 刑房を出て少し歩いた先にある四阿に勧められるまま入ると、監理官は刑吏からの報告を話し始める。

「やはり幼い子は素直ですね。 移動してすぐに男と弟の名前が判明したそうです。 急ぎ彼らの身分照合を行いつつ、侵入目的等々、すべてお話くださるように説得を続ける予定です。 詳細は後ほど書面にて報告致します」
「真偽の確認は隠密を使え」
「まあ、互いの命が惜しいでしょうから、嘘偽りは口にしないと思いますが」
「それでも念には念を入れよ」
「御意でございます」

浩大が漏らしていた、地方州の一件にも関連があるとみて間違いないだろう。 面倒ごとは迅速に片付けた方がいい。 僅かな隙を狙う輩が跋扈する王宮においては。
第一、これらが片付かないと夕鈴は塞ぎ続け、気もそぞろとなる。 彼女の関心が自分以外にあるのは、正直言って面白くない。 彼女は黎翔の清涼剤でもあり、活力の源なのだから。

・・・・・・・全てが片付いたら、離宮にでも連れて行こうか。
明光風靡な景色を楽しみつつ、夕鈴の好きな温泉で一緒に癒されよう。 美しい夜空を寝転びながら楽しむのもいい。 お忍びで近くの町をそぞろ歩くもいい。
どんなことでも、夕鈴と一緒にいられるだけで気分は上昇する。 
ふと夕鈴の実家に泊まったことを思い出し、久し振りに夕鈴の手料理を堪能したいと思った。 
以前は近寄るだけで叱責されたが、今の夕鈴なら「あーん」の味見も可能だろう。 黎翔だけのために料理を作り、それを一番そばで見ることが出来る。 
雑技団も真っ青な包丁捌きと真剣な表情を思い出す。 初めて目にした時は胸のときめきが収まらなかった。 出来たばかりの料理は温かく、素朴ながらも美味しかった。 
・・・・温泉のある離宮のひとつに、夕鈴が気軽に調理を楽しめる厨房を増築しようか。 
実家の厨房規模なら、李順が青筋を立てるような金額にはならないだろう。 そこでなら厨房で夕鈴の横に立つだけなく、ささやかでも何か手伝えるかも知れない。 
味見だけじゃなく、袖が邪魔にならないように押さえているとか(背後からずっと)、皿や箸を用意するとか(二人分だけ)、夕鈴の口端についた汚れを舐めてあげるとか(何もなくても舐めるけれど)、その他もろもろ・・・・・。

「殿下。 何やら楽しそうな妄想・・・・・、いえ御想像中に申し訳ございません」
「・・・・・何だ」
「先ほどの懸念が現実となり、一足遅かったと反省しきりで御座います。 ただ今、闇を纏いながら足早に向かって来る側近殿の姿が見えます」 

もう一刻過ぎたのかと、黎翔は顔を上げた。 
すると、怒りの闇を漲らせる獄卒のような李順の姿に、苦笑が漏れそうになる。 堪えきれずに肩が揺れると、背後から「これ以上怒らせますと、後が大変ですよ」と監理官が囁きを零す。 
さぼっていた訳ではないが、それが通用する相手ではないことは重々承知している。 ここは下手に回った方が得策だろう。

「ここまで足を運ばせて悪かったな、李順。 いま戻るところだ」
「そのようでございますね。 書簡が山と積み重なって、陛下をお待ちで御座います。 急ぎの書簡を宰相よりお預かりしておりますので、すぐにお戻り下さいませ」
「・・・・急ぎは先ほど片付けたはずだが?」
「新たに持ち込まれた案件です。 そのうちの数件に可及的速やかな処理を要する案件がりますので、それらが終わるまでは執務室から出られないと覚悟なさった方がよろしいでしょう」
「わかった。 では、先に昼餉を」

四阿を出ようとすると、冷笑を浮かべた獄卒・・・・否、有能な側近が黎翔の足を止める。 
訝し気に眉を上げると、李順はゆっくりと口端を持ち上げた。

「昼餉は執務室に御用意しております。 お妃さまからの手紙を添えて。 ・・・・陛下、このまま、政務室に、真っ直ぐ、戻られますよね?」  

夕鈴のもとでしばらく休息を取るつもりだった黎翔は、李順の言葉に懊悩する。
昼餉に夕鈴からの手紙を添えてあるということは、黎翔は執務室から出られないほど忙しいと李順から説明されていることだろう。 それなのに後宮に黎翔が現れたら、夕鈴はどう思うか。
そんなの・・・・・・・、逃げてきたと思われるに決まっている。 さぼっている、側近を困らせている、宰相や官吏を翻弄している。 そう捉えた夕鈴が黎翔をどう見るか、・・・・・言うも愚かなことだろう。 
やってくれたな、李順!

眇めた視線を向けるが、李順は表情ひとつ変えず、その横に立つ監理官が肩を揺らした。 


  
 


→ 次へ
スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 21:42:30 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。