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懐かしい遠い影  3
今日は冷たい雨です なのに、職場に手袋を忘れてきたので朝から手が冷たい。
自転車を握る手が真っ白になるほど冷たい雨。
職場について、直ぐにスタッフの首に当てて暖を取りました。 人肌っていいですね



では、どうぞ













次の日、昼過ぎても全く目を覚まさないで眠り続ける夕鈴の姿を確認しようと部屋を訪れると、浩大が「へーか」と姿を現した。 振り返るとにっこりと笑顔。 調査の結果が出たようだ。

「お妃ちゃん・・・って、今は南湖ちゃんか。 は、先々々々代の皇帝、へーかの曾祖父の時代っすね。 その時の後宮に居た人物だっていう事が判明しました!」
「・・・・そうか。 で?」
「う~ん、情報が少ないんだけど、南湖ちゃんに会える? も、ちょっと聞きたいことが幾つかあってね~。 部屋に居ないようだけど・・・・ 昨夜はこっち?」

陛下は黙って頷き、寝所内へと足を進めた。 浩大も後ろに付き従い歩いていたが、陛下が寝所入り口で足を止めたのを不思議に思い背後から尋ねる。

「へーか? 如何かした? ・・・・まさか?」
「・・・・浩大、探せ・・・・」

「あちゃあ~」 と言い残し、浩大は直ぐに辺りを探しに走り出す。
寝台に夕鈴の姿がない。 ・・・・・あんな夜着のまま、何処を歩いているというのか!





南湖は昨夜、自身の身体に現われた傷に記憶が微かに甦ったようで気が付くと足が勝手に歩き出していた。 何処へ行くのか、自分でも判らないが、足の赴くままに進んでいく。

着いた目の前には、寂れた後宮。

しかし、南湖の眼に映る景色は、当時の艶やかな後宮の風景だった。
手を伸ばせば、青葉が茂る植木が並び、各部屋部屋の入り口には色鮮やかな灯篭が風に吹かれて靡いている。 小窓から寵愛を賜ろうと着飾る女人の声が侍女を急かし、簪や歩揺から涼やかな音が聞こえてくる。 宝石箱から首飾りや指輪を選ぶ心地よい音がする。 
懐かしい・・・・・・ 化粧粉の匂いがする・・・・・

南湖の足が止まり、部屋の扉を開く。 其処に広がるのは何もない空虚な部屋。

しかし、南湖のの前には懐かしい自分の部屋が広がっていた。
棚には南湖の好きな花々が飾られ、卓上には洗練された豪華な茶器が置かれ、窓辺の長椅子には白の絹地に金糸で刺繍を施した大きな枕が幾つも並び・・・・・

そっと自分のお腹を押さえる。 その内、この部屋に小さな寝台が置かれる筈だった。
新たな命のための寝台。 あの御方の、陛下の御子のためだけの。

何故、自分は死んだのだろう。
自分に宿った大切な命を、何故守れなかったのだろう。
・・・・・その時、陛下は如何思われたのだろうか。
私の死を捨て置かれたのだろうか、それとも嘆いて下さったのだろうか・・・・・。
私の死に、御子の死に、陛下は泣いてくれたのだろうか。

邂逅する南湖の頬には涙が流れていた。




「お妃ちゃん!!」

浩大が息を切らせて夕鈴の姿を見つけた時、前日同様、彼女は後宮の一室で気を失い倒れていた。 同じ部屋の前で同じように深く瞼を閉じて。
纏めていない髪は広がり、夜着だけを纏わせた夕鈴は蒼褪めた顔色。
身体に触れると冷たい感触が伝わり、浩大は急ぎ夕鈴を抱えると陛下の部屋へ戻った。

気を失ったことで意識が代わるのではないかと思われたが、夕鈴は南湖のままで目覚めた。

「すまない。 ・・・・・何かを想い出したようで足が其方に向いてしまったようだ」
「・・・・何かとは?」

青白い顔の南湖に熱い茶を差し出し尋ねるが、静かに頭を横に振られてしまう。
毛布に包んだ夕鈴の身体を暖めたいが、それも今は出来ずに傍らに佇むだけの黎翔はただ見守るしか出来ない。 浩大が 「ちょいと、いろいろ聞きたいんすけど」 と話し掛けると、南湖は蒼褪めた顔を上げて小さく頷いた。

「中々、後宮まではオレ調べられなくってさ。 老師のじっちゃんが今、必死に書簡を広げているけど、へーかのひーじいちゃんの時代は後宮は賑やかで南湖ちゃんの、いや、南湖様の名前を探すのもたーいへんなんだよね。 そこで、聞きたいことがあるんだけどさ~」

ゆっくりと顔を上げた南湖は浩大の言葉を待った。

「後宮に召し出された年と、南湖様の出生地を教えてくんない?」
「何だ、そのようなことか。 良いぞ。 妾が娶られた年は・・・・・あ・・・・」

答えている途中で、彼女は頭を押さえながら眉間に皺を寄せる。 思い出せないのか、黙ったまま大きく彼女の身体が傾いた。 陛下が急ぎその身体を受け止めると、夕鈴は・・・・ 南湖は大きく息をついて頭を振る。

「済まぬ・・・・。 思い出せぬ・・・・、何故じゃ・・・。 何故?」

陛下に支えれたまま頭を押さえた南湖はしきりに頭を振り、思い出そうと懸命に呻いた。 徐々に身体が小刻みに震え始め、ついに軽い痙攣を引き起こし始め、それは段々大きな戦慄きへと変わっていく。

「あ、あっ! ・・・ああっ!!」
「夕鈴っ! あ、いや、南湖殿、もういい! 考えるな、大丈夫だから!」
「南湖ちゃん、お妃ちゃんの身体が壊れちゃうよ! 無理すんな!」

陛下が彼女の身体を強く抱き締め目を覆うと、開いた唇から断続的に浅い息が苦しそうに漏れているのが判り、カタカタと震える身体を優しく抱き締め直し、 「大丈夫だから」 と繰り返し伝える。 しばらくして、陛下に身体を預けてきた彼女から覆っていた手を離すと、気を失ったかのように眠りに付いていた。

黎翔は肩から力を抜くと溜息を付き、夕鈴の身体を抱き上げて寝台にそっと寝かせる。 
昨日からどうしていいのか判らない状態が続き、彼女を持て余していた。 しかし夕鈴の身体を支配する彼女の存在は、其の侭にはして置けない。

「南湖ちゃんを早く成仏させないと、お妃ちゃんの体が心配だね」
「ああ、夕鈴の身体が昨日より軽いように感じる。 老師に早く名を見つけ、彼女の死因を調べるように伝えろ。 浩大、お前も手伝え」

脱力したように眠る夕鈴の顔を見て 「了解っす」 と答えた浩大は、そのまま老師の居る後宮管理室へと急ぎ足を向けた。



「・・・・困った妃だ。 さて、どうしたものか・・・・」

政務の合間に来て見れば勝手に歩き出し、捕らえれば気を失う。
今の彼女を抱き締めても、見つめても意味がない。彼女は夕鈴ではないのだから。

眠る夕鈴の髪を一房捉えるも、そのまま寝台に広げた。









***










夕鈴が倒れてから丸一日以上経過して、赤い眼の老師がようやく目当ての書簡の棚を探し当てた。 歴代の後宮妃の名を記した書簡は膨大な量で、先々々々代陛下の時代と見当は付いたが、それでも一日以上掛かったのだ。

「じいちゃんでも解からないことがあったんだね」
「当たり前じゃ、その頃は後宮には居ない! 幾らわしだって全部は把握出来んぞ」

目当ての書簡といっても、当時の陛下が抱えていた妃は100人以上。
それも若い頃から晩年までを含めると延べ人数は・・・。
その妃の名から出身地、持参献上品目録、付き添った侍女名、毎月の手当て、嗜好品等々が書かれており、其れを一つ一つと紐解きながら 『南湖』 の名を探す。 管理室書庫は年代の大量の書簡がカビの匂いと共に保管されており、その匂いと戦いながら二人必死に探していた。 探す作業にも一日以上は必要と思われた。








頭の中に白い靄が広がる。 その靄の中を目的もわからず足を進める。
誰かが手を引いている。 顔を上げると、見知らぬ人。
悲しそうな表情の美しい人は夕鈴の手を引いたまま、歩き続ける。
繋いだ手から震えるほどの悲しさが伝わり、歩きながら涙が流れ始めていた・・・・・。

眠る夕鈴から涙が流れ、枕を濡らす。 陛下が静かに拭うと、ゆっくりと瞳が開き視線を彷徨わす。 空ろな瞳と陛下の瞳が触れ合ったような気がした時、夕鈴の少し開いた唇から囁くように呟かれた言葉は。

「・・・もう少し、待って、いて・・・・。 陛下・・・・」
「ゆ・・・?」

そう呟くと静かに瞳を閉じて眠りについた。 呟いたのは夕鈴なのか、南湖なのか。
頬に触れるも、瞳は閉じたままだった。
残された陛下は言葉もなく傍らに座り、眠る妃の顔を見つめた。







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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

長編 | 21:15:44 | トラックバック(0) | コメント(0)
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