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貴方以外の花嫁
夕鈴の御見合い。もちろん陛下が×××。
オリジナルさんもちょろっと出てきます。 ちょろっとだけなので、ご了承下さい。


では、どうぞ








「陛下には絶対内密に、さらに素早い行動が必要です」
「はい!」
「見つかると余計なことに発展しますし、政務が滞るのは困りますので」
「それは、もう!」
「侍女らにも緘口令を布きますが、くれぐれもばれないように」
「もちろんです!」
「自分を大切に、御家族の意見は大事に!」
「はい・・・・?」

最後の一言は理解し難いが一応今回の件は李順さんの協力がなければ 実行出来ない。 下町の自分の家にちょっと帰るだけ。 バイト中の里帰りなのだが、以前の事があるため李順さんに相談をした。
快く (?) 相談に乗ってくれた上司と無事に里帰り出来るようひそひそと話を詰める。 決行は夜に陛下が後宮から自室に戻った後となった。

絶対にばれてはいけない。  夕鈴の 『御見合い』 !


※ 


「ねえ、ゆーりん」

小犬モードの陛下は夕鈴の淹れてくれたお茶を飲みつつ長椅子で寛ぎながら、ふと思い出したかのように尋ねてくる。 お茶菓子を用意し終えた夕鈴は首を傾げて 「何でしょうか」 と返事をした。

「夕方、李順と一緒に何を話していたの?」
「・・・っ! え・・・? なんで、それを知っている?」

にっこり微笑み夕鈴を見る陛下は、小犬モードのまま視線だけは狼になっている。
夕鈴は、ごくりと唾を飲み込みながら、どうしようもなく強張った顔でお茶を飲み干した。

「立入り禁止区域でのことですのに、よく御存知ですね。 ・・・李順さんから、いつもの妃教育とお小言を頂いておりました。 いつもの歩き方指導ですが、・・・私そんなに変ですか? そりゃ、紅珠様みたいに優雅な歩き方は出来ないだろうけど、一応楚々とした気持ちで妃風に歩いているつもりです! 私だって・・・、私だって頑張っているんですっ!」

夕鈴は答えている内に興奮してしまい、後半はとうとう声を荒げて陛下を問い詰めるような口調になった。 僅かに漂っていた狼の気配は消え、陛下は目を丸くして夕鈴を見ている。 それが恥ずかしいなど、考えてはいけない。 やがて陛下は肩を揺らし、楽しそうに笑い出した。

「李順のお妃教育は厳しいね。 僕はゆーりんの歩き方、元気があっていいと思うよ」
「・・・・元気のある歩き方は妃らしくないと言われました。 姿勢だって充分気を付けているつもりなのに、反り過ぎだとか、欠伸して歩いているんですかとか! 毎回ばしばし注意されるし! 気品とか上品とか、そんなの何処に売っているんですか!」

ぜーはー、と息を荒く吐き真赤な顔で憤る夕鈴を目にして、陛下は柔らかな笑みを浮かべている。
さらに、「今日はゆっくり休んでね」 と夕鈴の背を労わるように撫でてくれた。 
陛下はいつもより短い時をともに過ごし、妃の部屋から離れて自室に戻って行った。 
廊下まで見送った夕鈴は、陛下の姿が完全に消えたのを確認し、大きく息を吐き出す。  部屋に戻ると全身から力が抜けて椅子に倒れ込む。 
お妃教育には今まで何も言わなかったのに、今日に限って鋭い勘!
そういう時には 『夕鈴、怒涛の怒りモード』 で対応だ。 余りの怒涛ぶりに呆れて陛下は話を変えたり、早々に離れていくことが多い。 ちょっと情けないけど、通用したので良しとしよう! 
さあ、帰宅の用意をして裏口へ急ぐのだ。
李順さんが用意してくれた馬車が待っている。





「姉さん、お帰り。 今回は随分遅い時間帯に帰って来たんだね」
「ごめんね。 えっ・・・と、偉い人が来るので利用するお部屋の丁寧な掃除に時間が掛かっちゃってね。 ところで青慎、ちゃんとご飯食べてた?  野菜も食べてる? 三食ちゃんと食べないと体壊しちゃうよ。 頭だってちゃんと動かないわよ!」

弟の笑顔を見て、姉モードになった夕鈴は矢継ぎ早に質問して、青慎を気遣う。
奥の部屋から父親が出て来て、すぐに頭を下げる。

「悪いな、仕事中なのに呼び出して。 明日は宜しくな~」
「もう、仕方がないわよ! で、明日は何時なの? 手紙には詳細書いてないし」
「ああ、すまない。 明日の午後一でお願いしてあるんだ。 午前中は準備をしてくれるよう、役人御用達の店に頼んであるから」
「へ~、用意がいいじゃない」

下級役人とはいえ、一応は役人なのである程度融通が利く立場。 まあ、その役人絡みで今回夕鈴が急遽王宮から仕事を休んでまで戻って来て貰ったのだから、ある程度は用意しておかないと恐ろしいことになると父は重々承知している。

今回、夕鈴に王宮から一旦戻ってもらった訳は、上司より数人の年頃女性を用意して上司の更に上司の息子と 「御見合い」 させるとのこと。 父が言うには、夕鈴の参加は数合わせ。 
変なところで人がいい父が断れなかったのだ。
今回夕鈴が参加することになった下級貴族の息子のお見合いは、邸敷地内の庭で行なわれる。 その庭でお見合いを行い 『これは』 と思う女性と話し合いを行なう、まあ、男1:女多数の変則合コンだ。 上の階級の人間の考えることは良く判らない。 まあ、後宮みたいなものか?
沢山の妃の中から 『これは』 と思う妃の部屋へと渡る。 選び放題?
まあ、それが嫌だから陛下は 『臨時花嫁』 を雇っているのだろうが。

次の日の朝、久し振りに実家で目を覚ました夕鈴は簡単に身支度を済ませると朝食の用意に台所に立つ。 青慎が水汲みをしてくれたので早速用意を行い、声を掛ける。 野菜中心の青慎のための朝食だ。 (飲みすぎ父の為にも野菜は必要と、少しは考えた)
まだ時間があるので、友人に会い、久し振りのおしゃべりに花を咲かせる。
「以前の里帰りに連れてきたお役人さんとはどうなったの?」 と聞かれ、夕鈴は硬い笑顔で 「どこにもいってないわよ」 と言い慣れた台詞を零した。

その後父に言われた店に出向き、見合い用の衣装に着替える。 と言っても王宮妃の装いとは違い正絹ではなく、豪華に見えるだけのお洒落な衣装。 髪や化粧は自分で施す。 目に留められたい訳ではなく、人数合わせなのでもちろん気合は入らない。

午後、上司の上司の息子の縁談本番。
意に添わないが父の上司に逆らえない気持ちも判る。 下級役人は上には捲かれろだ。
まあ 縁談に参加したのが、陛下に気付かれると正直大変。
未だこの時間帯には後宮に訪れることもないし、午後の政務に顔を出さなくても李順さんが何とかしてくれる手筈になっている。 数時刻大人しく演技をしていればいい話だ。 お妃演技の練習にもなるし、父の顔も立つ。

下級とはいえ、そこは貴族。 紅珠の私邸とは比べ物にならないが、それなりに大きな庭園で縁談は行なわれた。
夕鈴のような女性が7~8人ほど、庭を優雅に歩いており、夕鈴もおしとやかな演技をしながら花を眺めたり、他の女性と会釈をしたり、お茶を飲んだりして時間を潰した。 
相手は体躯の良い高身長の男性。 優しそうな顔立ちに庭に居た女性は頬を染めて彼に魅入っている様子が見て取れる。 
夕鈴は、自分が居なくてもすんなり決まりそうだと思い安堵した。

見目が良いだけの男性に見慣れている夕鈴は、興味もなくただ庭を歩いていた。 その姿が逆に男性の気を引いたのか、白羽の矢は夕鈴に当てられた。 それを聞き驚いたのは当の本人。 「な、なんで~~?」 と蒼褪める。
今日中に王宮に戻りたいのに、拒否権はないのか?
別室に通され、表面は妃演技を続行しながらパニックだ。 必死に断りの言葉を一生懸命考える。 あと数刻で終わると思っていたのに・・・。 ただ庭を歩いていただけなのに・・・・。
お妃教育のおかげ (李順のおかげ?) で楚々とした立ち振る舞いが常となっている上に、後宮での侍女らによる全身の手入れ、紅珠との茶会で覚える貴族子女らしい仕草など、知らず他人の目を引いていることに本人だけが気付かなかった。

「お待たせ致しました。 孫白濠と申します。 ・・・汀夕鈴様ですね」
「ええ、そうですわ」

扉から顔を出した好青年はにこやかに挨拶をした。 夕鈴は自分は唯の人数合わせであり、その気はないんですとは言えずに身を竦める。 にこやかに微笑む目の前の貴族に対して、断る手段が全くと言っていいほど思いつかない。

「貴女は庶民であるにも拘らず、貴族子女の中でも堂々と過ごされておりましたね。 今回、私のために集まった数多の女性の中でも特に目立っておりました。 このような出会いがあるとは嬉しいものです。 庶民である貴女もそう思うでしょうね」
「・・・・・・」

夕鈴は無言で微笑み、思案する。  ・・・・な、なんて言ったらいいのよ~~!
どうしたらいいのかと困惑する夕鈴に白濠が近付き、恭しく手を握ってきた。

「私のこの容姿にも、貴族という身分にも、広大な邸にも庭にも怖じけることが無い。 庶民だというのに優雅な立ち振る舞いに楚々とした気品。 私が求めていたモノをお持ちだ」

・・・・怖じけるって、貴族の身分やこの邸や庭、ましてや容姿に? 貴方の? 
それは単に見慣れているだけって。 普段はもっと上級の貴族や王様を見ているのだから。 それにしても、さっきから・・・・なんか上から言われているような気がするのは何故? 父の立場を思い黙って微笑んでいるけど、頭の中ではどうやって退室しようか考えてしまう。

「貴女と出会えた善き日に祝杯を挙げたい。 このまま受けて頂けるだろうか?」
「あの・・・・。 ひとつお尋ねしても宜しいでしょうか?」

立ち上がり杯を早速用意している白濠に質問してみる。

「何故多数の女性を一堂に集めて、見合いをしようと思われたのでしょうか」
「ああ、それは父上が決めたことだ。 孫家の名に幾人の家人が引き寄せられるか興味があると。 私が思ったより少ない人数だったが、貴女に会えたので良しとしましょう」
「・・・そうですか。 興味が・・・・」
「昨今、国王の代替わりで徐々に内政も落ち着いて来ているが、まだ不安定な面がある。 そんな不安がある中、やはり 『貴族』 の名に惹かれる者は多い。 貴女もその内のひとりだろう? いやいや恥ずかしがることは無い。 私に見初められたのだからね」
「・・・・・ほ、ほほほ」

父の立場はどうでもいい、こんな茶番に付き合っていられない。 正直、王宮の貴族の方がマシの気がしてしまう。 夕鈴はゆっくり立ち上がると微笑んだままで孫白濠に告げる。

「私には勿体無いお話ですが、庶民である私とは世界が違い過ぎて驚いてしまいました。 今回の縁は無かったものとして、どうか御辞退させて下さい」

白濠は驚愕した顔になり、扉に向かった夕鈴を追掛けて彼女の手首を掴み強く壁に押し付ける。 手首を掴まれ身動きが取れなくなった夕鈴は眉根を寄せて彼を見上げた。

「・・・・何故? こんな良い話は二度とないですよ」
「そうでしょうか? でも自分自身の心に尋ねると、身分もそうですが、性格的に孫様とは合わないと思います。 どうか今回の話は無かったことにして下さいませ」

穏やかに且つ丁寧に伝えたつもりだが、お坊ちゃま育ちの彼には 『断られた』 経験が殆どないようだ。 やばい? と思った時には彼の顔は赤を通り越して茶色に変色し、掴まれた腕にぎりぎりと痛みが走り始めた。 白濠の体が細かく震え始め、 『やっぱり、やばい!』 と感じる。 彼の片腕が戦慄きながら上がり 頭上へ振り下ろされる寸前、夕鈴は目を瞑った。


「私の妻を返して貰おうか」

ダンッ!!  と夕鈴が押し付けられていた壁の頭上で重い音が響いた。
聞き慣れた声色に、目を瞑っていた夕鈴は慌てて声のした方向を向き、愕然とする。

「へっ・・・か!! 何故?」
「何故? 我が妻こそ何故このような場所にいるのか、それこそ問いたいが?」
「あ、あの、それは父さんの仕事上の・・・・、その・・・・」

思い切り 『狼陛下』 の登場だ! 不穏な空気を纏い、不遜な態度でかなり怒っている!!
それだけで夕鈴は反射的に泣きそうになる。 重い音のした壁を見ると、鞘から出された刀が白濠の袖ごと壁に突き刺さり、夕鈴が慌てた。

「な、なんですか! こ、これ抜いて下さい! 危ないじゃないですか!」
「私の妻が・・・・、これを庇うのか?」
「庇っていませんって! あ、あ、血が出ています! 早く抜いてぇ!」
「大事な見合い相手だからか? ・・・・我が妻よ」
「そうじゃなくって、一体いつ来たんですか? 私はお断りしていたんです!」
「・・・・聞いていたが」
「聞いていたなら、ここまでする事ないじゃないですか! 怪我してるって!」

怒り始めた夕鈴に敵うはずがないと陛下は溜息を吐き、刀を壁から外し、鞘に収めてくれた。
白濠は刀が取り払われると腰が抜けたようにその場に座り込んだ。 全身がガタガタと震え、目の焦点が合っていない。 頭上から外套を覆っているとはいえ陛下の威圧感、気迫は全身から漂っており、下級貴族のお坊ちゃまには到底対抗することも出来ない。 
「もう一度言いますが、お見合いはお断り致します。 この件で父に何か文句があるくらいなら、直接わたしに言って下さい。 それだけは重々御願い致します!」

震え続ける白濠に、しっかりと伝えて夕鈴は胸を撫で下ろす。 父に文句なら問題ないが、青慎に係わって来るかも知れないので其処は念を入れる。 言いたいことを言った後、夕鈴は陛下を連れて急いでその場を離れた。


夕鈴たちは孫邸より随分離れた茶屋に入り、席に着くなり頭を抱えて陛下を見る。

「どうやってあの邸宅が判ったんですか? というか、政務はどうなったんですか? 李順さんや宰相に怒られますよ! 抜け出してきたんでしょ?」

狼から変貌し、小犬のような態度を見せる陛下は団子を註文しながら答える。

「だって~、夕鈴が僕に内緒で実家に帰ったって言うから・・・・・」
「許可を頂いています。 それに今回は一泊だけで夕刻には戻る予定でした」
「でも・・・。 夕鈴、殴られそうだった」

うっ・・・。 それはそうだ。 陛下が現われなかったら逆上した白濠に殴られていただろう。 あの体格に殴られていたら王宮には戻れない状態だったかも。 思い返して、心の底からブルッと震えが走った。

「その事に関しては・・・・感謝します。 ありがとう御座います。」

素直に頭を下げて申し訳ない顔をする夕鈴に、陛下は安堵したように夕鈴の手を握る。

「ごめんね。 夕鈴が居ないと知って僕すごっく慌てたんだ。 何故内緒で帰ったの?」
「・・・・だって絶対に反対するでしょ? 仮にも・・・・している私がお見合いなんて。 でも父の仕事の上司からの命令というか、頼まれ事というか娘として協力しただけなんです。 何かの間違いで選ばれちゃいましたが、すぐにお断りしていました!! そこは・・・・ 断っていたのは聞いていたんですよね?」
「うん、そこは聞こえた。」

きっぱりと断りを入れる夕鈴の台詞に聞き入っていて部屋に入るのが遅れた。 
一歩遅ければ夕鈴の顔に傷が付くところだった。 「危ないところだったね」 と夕鈴の手を擦っていた陛下の目に、見合い相手に強く掴まれて出来ただろう赤い痣が見えた。 陛下は直ぐに夕鈴の袖を捲り、手首に出来た痣を確認する。 陛下の視線に気付き、掴まれた箇所が赤くなっているのに夕鈴は驚いた。

「あ、痣になってる。 全く、お坊ちゃまってすぐに切れるんだから・・・・」
「・・・・夕鈴」
「あの、見た目より全く痛くないんですよ。 痣っていうか痕ですね、これは。」
「・・・・・」
「痕・・・じゃ通用しませんか?」
「・・・・・」

いやあ~、どうして!?  ああ、恐い!  なにか返答して下さい、陛下!
下町の茶屋で 『陛下』 とは言えず、腕を掴んだまま睨むように沈黙する陛下に恐ろしさが増していく。 どうして痣を見つけちゃうの? もう、泣いちゃおうかな!!
夕鈴が本当に涙ぐみ始めた時、ゆっくりと顔を上げて夕鈴を見た陛下に表情は無く、

「夕鈴帰ろう。 実家に寄らずに、すぐに帰ろう。 衣装などは後で届けさせるから」

静かにそう話した。 余りにも抑揚の無い声に、ゴクリと唾を呑み込み夕鈴は頷いた。
茶屋から王宮への帰宅中も無言のままの陛下に夕鈴も何も言えない状態だった。



里帰りをしていた為、侍女らにお休みを言い渡していた自室には夕鈴だけ。 貸衣装を丁寧に畳み、返却出来るようにして一息吐く。 湯を沸かしていると陛下が訪れた。

「陛下、李順さんに怒られませんでしたか?」
「ちょっとだけ・・・・。 今回は数刻だけだったから」

へへっと笑顔を見せる陛下は小犬モードだったので、心からほっとしてお茶を淹れる。 陛下は長椅子に腰掛けてお茶を飲みながら 「その姿の方が似合ってる」 と褒めてくれた。 いつもの 『妃スタイル』 だが、髪は結わずにそのまま下ろしている。 
頬を染めながら 「・・・ありがとう御座います」 と礼を言うと陛下は嬉しそうに微笑んだ。 夕鈴もお茶を飲みながら 『ああ、大変な一日も終了。 あとで家に手紙を書かなきゃな』 と考えていると耳元の髪が一房陛下に捕らわれていた。

「・・・・夕鈴の御見合い相手って、孫って名前だったよね。 孫白濠だっけ?」
「え・・・・。 は、はい」
「ふ~ん・・・・・」

狼陛下の眼差しに気付いた夕鈴は 『自分の妃につけられた痣に怒っている陛下』 に身震いする。 しかし、夕鈴の腕に付けられた痣は、実家に戻っての 『単独事故』 みたいなもの。 臨時花嫁仕事以外での、自業自得の事故みたいなもの。 陛下が個人攻撃してはいけない。 ましてや 『偽妃』 のために!

「陛下、まさか孫家に・・・・ 何かしないですよね?」
「ん? どうして? 何かって夕鈴、僕がすることに反対するの?」

小犬の顔が段々狼に変わっていく様を恐ろしく思いながら、心の奥で嬉しく思う自分を知り、自分の頬を思いっきり叩く。 『私のために憤る陛下』 に喜ぶ自分がひどく厭らしく思えた。 
夕鈴がいきなり自分の頬を叩いたので、黎翔は驚いた。

「どうしたの? い、痛いでしょ?」
「いえ・・・・ 自己嫌悪による叱咤の現われです。 お気に為さらずに。 それより私の家の事情に陛下が関わるのは駄目です。 個人的な事には関わらないで下さい!」

夕鈴の台詞を聞き、う~んっと唸った陛下は 『夕鈴はそう言うと思ったけど』 と考える。

「・・・・じゃあ、僕の花嫁さんに痣をつけた罰っていうのは?」
「花嫁じゃ縁談に行く訳ないでしょ! 駄目です」
「貴族として有るまじき縁談を行なっていたから・・・・、は?」
「結構、集団御見合いあるようですよ。 今回のパターンは初めてですが」
「・・・・・夕鈴、庇ってる・・・?」
「もう、庇っていないですよ。 私だってあの上から目線には嫌気が刺しました。 でも陛下が気にすることはないです。 だってもう二度と会うことも無いんですから」

ねっと笑顔を向けられ、陛下の怒りは向かう先を失い、軽い苛立ちだけが残る。 痣を付けられた夕鈴が陛下に怒るなと説得しているのだ。 夕鈴の為の怒りを閉じ込める気はないが、当の本人に閉じ込めろ、忘れろと説得される。

「夕鈴・・・・もう一度痣を見せて」

静かに手を差し出され、夕鈴は渋々腕を陛下に差し向ける。 陛下は夕鈴の袖を捲り上げ、そっと痣を撫でる。 急に撫でられた夕鈴はくすぐったいような恥ずかしいような感触に少し緊張するが、これで陛下の気持ちが治まるならと目を瞑り暫しの我慢だと思うことにした。
その腕にチリッとした痛みが走る。

「?」

痣の付いた腕を見ると、陛下の唇が触れていた。 あまつさえ吸い付いて・・・。 大きく目を瞠り、近距離での陛下の行動に動けなくなった夕鈴に微笑んでまた唇が触れる。 同じようにチリッと痛みが走る。

「な、な、なにして・・・」

紅い花を咲かせた陛下は少し気が晴れたのか、夕鈴に視線を戻すと満面の笑みを浮かべた。
「痣が気にならなくなるようにしようと思って」  真っ赤になった夕鈴は自分の腕を引こうとするが、しっかりと陛下に掴まれてしまった。

「全く気になりません!! 逆に恥ずかしいですから!」
「だって気になる。 もう少し花を咲かせたいな。」
「咲か・・・ 陛下やめて~。 本当に気になりませんから!」

真っ赤な夕鈴の頬を撫でて陛下は小さく笑う。 ギッと睨む夕鈴も可愛いと微笑むが彼女には通用しない。 これ以上笑うと酷く怒るだろうと思い、笑いを我慢している内にお腹が痛くなる。

「ゆ、ゆーりん、ちが・・・おなかいたい・・・」

笑いすぎて崩れるように腹を抱えた陛下が床に座る。 耳まで真っ赤になった夕鈴は震えながら 「陛下のばか!」 と貸し衣装と手紙と筆を持ち、ばたばたと音を立てて部屋を出て行った。 張老師の部屋で手紙を書くのだろう。 縁談の結果と貸し衣装の返却を頼むために。
夕鈴の行動は直ぐわかるが、考えていることや台詞はいつも予想外で面白い。 今回の縁談は面白いものではないが、痣の周りに付けた花に関しては予想外だった。

「・・・僕のだけが 『痣』 を気にしているのか。」

笑いすぎて涙が出て、目を擦りながら立ち上がり暫し考える。 孫家に手を出すより、もう少し夕鈴に紅い花を咲かせる方法を。 それも夕鈴をこれ以上怒らせないように。 難しい問題だと悩んでいると、側近が顔を出した。

「ああ、やはり此方でしたね。 ・・・・夕鈴殿は居ないようですが?」
「老師のところに逃げた・・・・」
「~~また何かしたんですね。 そんな事より政務が滞ります。 早めに戻ってさっさと仕事して下さい。 毎回私が迎えに来るまで休憩するのは如何かと思いますが?」

仕方がないと政務室に向かいながら、難しい問題ほど克服するのが楽しいとほくそ笑む。







FIN

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 12:36:03 | トラックバック(0) | コメント(0)
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