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懐かしい遠い影  6

やっとこの作品、終了。 最初はコメディタッチにしようと想っていたのに、いつの間にか
重くなってくるわ、長くなるわ・・・こんな出産初めてよ!
どうにかオチもついて、ほっとしています。





では、どうぞ















裏帳簿の一頁。

今回の横領は、偶然裏帳簿の存在を知った何の罪もない真面目な事務官に罪を被せて殺害し、口を封じたものだった。 
「数年前にも同様なことがあったな」 と、陛下から冷たい言葉がかかる。

「僅かな金銭で無理やり町民を脅し、脅しに逆らう有権者の娘を攫い恐喝する・・・・。 街道の工事にも予算からの裏金が発生する手筈だったとはな、用意周到だ。 孫張力、調べは附いている。 鉱山の件も調べ直しをしている。 鉱山で死亡した者達は大臣に意見していた者たちと調べがついている。 他にもあるぞ。 一切、申し開きは聞けぬ。 大人しく縛につけ」
 
その声に膝を着き、蒼白な顔となり全身を振るわせる孫大臣。

「お、お許しを・・・・。 陛下っ! お許しをっ!! 孫家は歴代の陛下に心より仕えて参りました! その功績を鑑みて御容赦を賜りたく・・・・」



「・・・・孫・・・」

陛下の腕で眠っていた妃がゆっくりと口を開き、場に透る声色を響かせた。
見開いた瞳は昏く痩せた身体は今にも倒れそうだが、妃は陛下の膝より立ち上がると、高座より静かに足を進め、孫大臣の元へ近付いていく。

着替えることも出来ずに居た妃は夜着のままで、その上に上着を羽織っているだけ。
場に沿わぬ心許無い衣装の妃から、燃え滾るような闇く紅い焔が揺らめいた。
口角を上げ、大きく見開いた瞳で孫張力をまっすぐに見つめる。

政務室の片隅に座っている妃とはまるで違うその姿に、孫は全身を震わせていた。
いつもきょろきょろと大きな目で周囲を見回し、陛下と目が合うと頬を染め俯く、華やかさはなく、色気もない、陛下が何故この妃を大事にするのか理解出来ずに居た。
その妃から底知れぬ恐怖を感じたのだろう、半開きになった口から音のない悲鳴が上がる。


孫の傍に立つとゆっくりと腰を屈め、孫の頬を挟み込む。
夕鈴が狂喜の笑顔を孫に近づける様を、驚きながら陛下と側近は見ていた。 その場には誰にも口を聞くを挟ませない、恐ろしいほどに凍りつくような雰囲気が溢れている。

「・・・・・孫、孫蘇望よ、妾を覚えて居るか?」

孫張力はガタガタと震えながらも、蒼褪めた顔を乗せた首を横に力なく振る。

「そうか? ・・・・忘れたとは謂わせぬぞ?」

妃の昏い瞳が一際大きく開き、張力の頭上に靄が現われ揺らめいた。 靄が徐々に形作られ、その型が人と解かるようになると妃の狂気に狂ったような哂い声が短く響く。

「其処に居ったか! 孫蘇望よ! 妾を覚えておろう! お前に弑られた南湖じゃ! 腹の御子共々太刀を浴びせられ、お前に直接命を絶たれた妾を!」

孫張力の頭上で揺らめく人型に鋭い視線を向けて、叫ぶ南湖。
その身体がふら付いた時、背後から陛下が急ぎ駆けつけ両腕を支える。
視線の先の人型の靄が、まるで苦しそうに揺らめく。

「妾のこの辛さを、苦しさを思い知れ! お前と共に地獄の業火に焼かれるまで付き逢おうぞ! 長年の妄執を知れ!」

妃が靄に向けて腕を突きつけると、靄からくぐもった呻き声が聞こえ、人型の靄が苦しそうにのた打ち回っているように見える。 下肢を震わせながら、甲高い声で哂う南湖が息を詰めた。 自身も苦しそうな表情になりながら、突きつけた腕を更に前に突きつける。

魂が抜けたかのような孫張力の身体が大きく傾ぎ出し、左右に揺れ出した。
頭上の靄が濃くなり表情まで見て取れる程になり、その表情が苦悶に揺れる。

南湖の額から汗が噴き出し、靄と共に大きく揺れ出した。 支えている黎翔も驚く程の力が掛かり翻弄されてしまうほど。 李順が慌てて近寄るが、如何したらよいのか戸惑っている。 そのまま孫と南湖が睨み合っていたが、大きく揺れた孫が後ろへ突然倒れた。 意識を失ったのか白目をむいたまま、ぴくりとも動かない。
頭上で蠢いていた靄もいつの間にか消えている。

「・・・・っ!!」

靄が消えたのと同時に夕鈴の身体が力を失い脱力するが、後ろで支えていた陛下が難なく抱留めた。 今までにない安堵した表情の南湖が陛下の腕にいる。 青白い顔に安らかな笑みを浮かべると、陛下の頬にそっと手を触れる。

「黎翔、面倒を掛けたな・・・・。 中の 『ゆーりん』 が力を貸してくれた御蔭であ奴に恨みを霽らすことが出来た。 でなければ、妾もあ奴と共に地獄へ赴いていただろう。 『ゆーりん』 が御子の為に自身の力を注いでくれたようじゃ。 ・・・身体を・・・・ 長く借りて・・・・済まなかったのぅ。 ・・・もう、妾も・・・」

長く息を吐き目を伏せる南湖は柔らかく微笑んでいた。 頬に触れた夕鈴の手に陛下が自身の手を重ねる。 顔を上げた南湖は陛下の頬から手を滑らせると首に回しそのまま抱きついた。

「ああ。 ・・・・中の 『ゆーりん』 が泣き続けておる。 悪いが黎翔から侘びを・・・・ あの者達にも・・・有難うと・・・・伝えて」

頬に唇が当たったような気がしたと思ったら、腕の中の夕鈴から全身の力が抜ける。
首が後ろへ反り返り、気を失ったのが解かる。

「・・・・・御帰りになられたようですね」

孫張力を縛り上げた李順が陛下の元へ近寄り、意識の無い夕鈴の顔を見て言った。
陛下は黙って頷くと、夕鈴を抱いたまま立ち上がり謁見の間を退室する。







部屋へ向かい歩きながら、抱き上げた夕鈴の瞼から涙が流れているのを知る。
この涙は、南湖から夕鈴へ向けての感謝の涙だろうか。
部屋に入り、寝台に寝かせると少し微笑んで見えた。 久し振りの本当の夕鈴の頬を撫でると、くすぐったそうに眉間に皺が寄り、横を向かれてしまった。

「へーか。 南湖ちゃん、逝ったみたいっすね」
「・・・浩大」

窓から姿を現した浩大は眠そうな顔で、それでも安心して夕鈴の顔を見た。
痩せた姿に胸が痛むが、微笑む顔にほっとした。

「老師は? あれだけの量の書簡を片付けるのは大変だろうな」
「きっとお妃ちゃんが元気になったら手伝わせるんだろうね。 孫大臣の件も纏まったし、南湖ちゃんも無事に成仏出来たようだし・・・・。 あとは、お妃ちゃんの体力が戻るのを待つばかりか」

卓に積まれた書簡を広げ筆を走らせながら浩大の話しを聞いていたが、眉間に皺を寄せて筆を止める。

「何故夕鈴が書簡の片付けをしなきゃならない? 老師と浩大が出したんだろう? 出した者が片付ける。 老師に言っておけ、夕鈴は暫らく静養させる」

冷酷な表情で言い放つ陛下に逆らえる者はいないだろう。 おまけに妃絡み。
早急に片付けなきゃ駄目だ。 万が一お妃ちゃんが片付けを手伝い始めたら・・・・・・
それを陛下が知ったら・・・

「早めに片付けるように・・・・」

冷たく告げると筆を持ち、仕事に戻る陛下。 しかし、その表情は柔らかかった。










次の日、目が覚めた夕鈴は体中の痛みに悲鳴を上げる。

「あつっ・・・痛~~い! うわっ、全身痛い・・・。 あああぁ・・・」

軋む関節の他に頭痛もする。 どうにか起き上がると眩暈が襲ってきた。
思わず身体を支える為に手を寝台に付くと、むにゅっとした感触が・・・・。 『えっ?』 と付いた手を見ると陛下の・・・・お腹? 急に振り向いた為、更に大きな眩暈がして体が大きく傾く。

「おっと。 夕鈴、急な動きは駄目だよ。 取り憑かれていた間 食事していないから眩暈もするだろう。 まずは重湯か粥を用意させるから、もう一度寝てて」

傾いた身体を支えた陛下は、そのまま夕鈴を横に寝かせて寝台から離れて行く。
急に動悸がしてきた夕鈴はゆっくりと周囲を見回した。

・・・・ここ、もしかして陛下の・・・・・。



夕鈴は後宮立入り禁止区域で白い影を見たのは覚えている。
しかし、その後は朧ろげにしか記憶出来ていない。

何処かを歩きながら、恐ろしい光景を見たような気がする。
綺麗な女性と手を繋いでいたような気がする。その女性の悲しい記憶に引き摺られたのを覚えている・・・ような。 人を怨む気分を味わった・・・ような・・・。 夢の中にいたようで、幻を体験したような不思議な感覚が身体に残っている。 おまけに全身が痛む。 この痛みは現実だ。 何があったのか解からないが、これだけは心が覚えていた。

小さな淡い光が 『たすけて』 と繰り返し、繰り返し、夕鈴に伝えていた。
その小さな淡い光が時に強く、時に弱々しく光りながら夕鈴の心に響いていた。
夕鈴がどうにか、その小さな光に手を伸ばし 『あんしんして、たすけるから』 と告げた時、夕鈴と共に瞬時に暖かく大きく光り・・・・。

いつの間にか綺麗な女性が現われて微笑みながら、その小さな光を胸に抱き階段を登っていった。 何度も振り向きながら私に微笑み続けた、あの綺麗な女性は誰だったのだろうか。


一番解からないのは、何故わたしは陛下の部屋の寝台で寝ているの?
おまけに目が覚めた時、隣に陛下が居たような・・・・。 ぶるっと身体が震えた。

その時、笑顔の陛下が部屋に入ってきて、温かい粥を持参した。
寝台に腰をかけて、 「起きれる? 少しでも食べた方がいいよ」 と優しく起こして大きな枕を幾つも背に入れてくれる。 其のままの体勢でいると、匙に粥を掬って口元まで運んでくれる。
その陛下の一連の動作を呆然としながら見つめていた夕鈴。
その夕鈴に顔を近づけて 「どうしたの? 食べられない?」 と問い掛ける。

「あの・・・一体何があって・・・私は陛下の部屋で寝ていたのでしょう・・・・。 そして、何故わたしの身体がこんなに痛むのでしょうか?」

その夕鈴の言葉に、陛下は大きく目を見開き、そのまま黙って俯いた。
夕鈴が困った顔のままで陛下の答えを待っていると、突然にっこり笑顔の陛下が顔をあげた。

「うん、僕には夕鈴が唯一の妃だな~と再確認したところ! 身体が痛むのは、夕鈴に幽霊が取り憑いたんだよね。 昔、後宮にいたお妃がね。 で、う~ん、いろいろあったんだけど・・・・ 全てもう解決したんだよ」

台詞の後半は悲しそうな声色になっていて、それ以上聞くのを躊躇われた。
陛下の瞳は何処かを彷徨うように遠くを見ていた。
その視線の先に何があるのか解からないが、私が知らぬ間に何かが始まって終わったのは解かった。 この身体の痛みは、その妃が取り憑いて・・・・

「・・・・・・・取り憑かれていた間、私変なことしませんでしたか?」
「うん、彼女・・・・ 南湖は夕鈴に感謝していたよ。 身体を借りて悪かったって。 そして有難うって。 さあ、今はお粥を食べて体力をつけて」

南湖様・・・あの綺麗な女性は南湖様というのか。
思い返すと胸がほんわりと暖かくなってきた。 目の前に差し出された匙の粥をぱくんと食べる。 暖かくて美味しい・・・。 続いて現われた匙の粥もぱくんと・・・。

「んんっ! す、すいません! 自分で食べます!」
「・・・そう? 僕まだ仕事があるから夕鈴はこのまま食べていてね。 食べたらそのまま此処で寝るんだよ。 まだ歩く体力も無いからね」
「はい・・・。 重ね重ね、本当に申し訳ありません・・・」
「夕鈴!」

両方の頬を掴まれて、顔を上げられた。 目の前には凄く近い場所に陛下の顔!
慌てた私に、辛そうな紅い目が迫った。

「君は彼女を救ったんだ。 その為に歩けないほど気力と体力を削がれたんだ。 君が謝ることは一切ない。 彼女の妄執はこの後宮に有ったんだ。 君に背負わせるものではないんだ。 ・・・謝らないで欲しい・・・」
「・・・陛下」

その台詞の全部は理解出来ないが、感謝されこそ謝罪は彼女に失礼だという事は理解出来た。 あの彼女の微笑みが浮かんで来て、知らぬ間に涙が溢れていた。

陛下が夕鈴の涙を見て、優しくその身体を抱き締めた。

「ごめん、夕鈴。 泣かないで・・・泣かせたかった訳じゃないんだ」
「・・・はい。 今は、彼女のための涙です。 あの方は小さな光を伴い階段を上がって逝かれました。 明るい場所に微笑みながら・・・・・・」

彼女の耳元で小さく 「そうか・・・」 と答え、そのまま夕鈴を抱き締める。
陛下から伝わる暖かさに夕鈴は瞼を閉じて、もう一度彼女を想い返した。

華やかな後宮の裏側で何があったのか、私は知る由もない。
知るべき立場になる訳でもない。
ただ、暖かい微笑みを浮かべた彼女に心から安堵していた。
こんな私でも、役に立てたみたい・・・と。



動かなくなった夕鈴から、静かな寝息が聞こえてきた。 そのまま頭を支えながら寝台に横に寝かせる。 目尻に溜まった涙を拭い、髪を一房取り優しく口付ける。 二口しか食べていない粥を下げながら、苦笑した。
その原因を作ったのは自分なのか、夕鈴なのかと思い。



急ぎ仕事を済ませて、暖かい彼女の横で休みたいと陛下は執務室へ足を向ける。












次に目が覚めた夕鈴は、また隣で眠る陛下に怒鳴っていいのか、仕方が無いと諦めた方がいいのか頭を悩ませる羽目に陥る。 歩けないから陛下の寝台に居る自分。

ならば体力をつけて、一刻も早く自分の部屋に帰らねば!
目が覚めるたびに起こる動悸と戦いながら、夕鈴は心に誓うのであった。




FIN



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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:14:55 | トラックバック(0) | コメント(0)
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